研究について

わたしの研究

29)馬場﨑隆志(大学院生D3、2012年卒)同門会報第35号(2020年12月)より

平成24年に長崎大学医学部を卒業後、広島大学腎泌尿器科に入局し臨床経験を積み、平成30年10月に当広島大学分子病理学研究室の門を叩いてから、はや2年が経過しました。入学後は前立腺癌における新規バイオマーカーについて研究をしており、具体的にはclaspinというDNA damage repairに関与する分子と前立腺癌との関係を解析しております。当研究室の先行研究において、claspinは胃癌、腎細胞癌において、免疫染色で癌に高発現しており、陽性症例が予後不良であること、癌の細胞増殖に関与している可能性があることが明らかになっています。一方前立腺癌に関しては、去勢抵抗性前立腺癌になった後の抗癌剤耐性が以前より重要な問題となっており、その耐性メカニズムの解明が求められています。前立腺癌とclaspinの関係はこれまでに報告がなく、claspinの臨床病理学的意義は不明でした。私の研究においてclaspinは臨床病理学的にGleason score、静脈浸潤、神経周囲浸潤と有意な関係があり、予後解析で再発に有意に関係しており、前立腺癌においてoncogenicに働くことを発見しました。またこれまでに前立腺癌細胞株を用いて実験を行い、前立腺癌における細胞増殖に関与していることと、ドセタキセルへの薬剤耐性に関与している可能性があることがわかりました。この結果から、claspinは前立腺癌のドセタキセル耐性への新たなメカニズムとなる可能性があるといえ、今後の前立腺癌治療につながる可能性を秘めています。これらの内容については現在論文執筆中であり、近日投稿予定です。
入学当初は右も左も分からなかった私ですが、当研究室の皆さまにしっかりと御指導いただき、入学から今まで何不自由なく楽しく研究をさせていただいております。実験自体は計画通りにうまく行かないことも沢山ありますが、一度立ち止まって何が悪かったのか検証し、再度条件を変えてトライするといった研究のプロセスも段々と身に付いてきたように感じます。一方新型コロナウィルスの広がりが心配される中、一時研究がストップする事態にもなりましたが、現在は研究を再開することができ、新しい研究様式に適応して研究を続けられており嬉しく思います。また研究成果を多くの学会で発表させていただき、大きな経験となりました。いつか海外の学会で研究成果を発表することができる日を楽しみにしております。
最良の研究環境をお与え下さっている安井 弥教授、病理診断および直接研究指導して下さっている仙谷和弘講師をはじめとするスタッフの皆さま、同門会の皆さまにこの場をお借りして深く感謝申し上げたいと思います。より一層研究に励みたいと思いますので今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

28)赤羽慎太郎(大学院生D3、2010年卒)同門会報第35号(2020年12月)より

 私は平成22年に広島大学を卒業し、2年間の初期研修終了後に広島大学第二外科(消化器・移植外科)に入局しました。以降6年間、手術を中心とした診療を行ってきました。大学院入学に際して、癌診療の根幹となっている病理学、ならびに癌研究について勉強したいという思いを強く持ちました。安井 弥教授ならびに第二外科大段秀樹教授より、その最前線である分子病理学教室で勉強する機会を与えていただき、平成30年4月より当研究室にて勉強させていただいています。
「大腸癌の新規診断・治療標的分子の探索」をテーマに研究を開始し、当教室の大上直秀准教授を中心に解析を進められている、Kinesin Family Member C1 (KIFC1)という分子に着目して実験を行っています。KIFC1は真核生物の細胞質中に含まれるモータータンパク質の一種で微小管に沿って運動する性質を持ち、細胞分裂や細胞内物質輸送に大きな役割を果たしていると考えられています。悪性腫瘍においてKIFC1は中心体クラスタリングという作用により、異常な染色体数を持ちながらの細胞分裂を可能とし、癌細胞のアポトーシスを回避させることが報告されています。過去の当教室の研究で、KIFC1は胃癌・食道癌などの進展・幹細胞性に関与すると報告しており、これまで大腸癌における既報告はありませんでした。外科手術標本を材料に免疫染色で大腸癌におけるKIFC1の発現を確認したところ、KIFC1陽性症例はリンパ節転移症例・遠隔転移症例と有意な相関を示し、KIFC1陽性は独立した予後不良因子であるという結果が得られました。大腸癌細胞株を用いた機能解析では、KIFC1は細胞増殖に関与し、大腸癌進展において重要な役割を果たしていることを見出すことができました。更にKIFC1阻害薬を用いた解析を行い、阻害薬により大腸癌細胞の増殖が抑えられることも確認され、KIFC1は大腸癌における有望な治療標的分子であると考えられました。最初の頃は実験も失敗の連続でしたが、教室の皆様に様々な場面で助けて頂きました。そのおかげでデータも積み重なり、現在論文投稿の準備に至っています。
 この研究結果をもとに、病理学会、癌学会等の全国学会で発表の機会をいただき貴重な経験をすることができました。このような素晴らしい環境での研究機会を与えていただいた安井教授をはじめとし、懇切丁寧にご指導いただいています教室の先生方に深く感謝申し上げます。大上准教授には本研究テーマをいただき、研究をご指導いただくとともに、消化管内視鏡標本の病理診断のご指導もいただき大変感謝しております。分子病理学教室に入学してから今日に至るまで、新しい発見のある毎日で刺激を受け、大変充実した研究生活を送ることができています。今後も病理学教室で得られた経験を糧に、外科・病理との架け橋になって診療・研究に貢献することができればと思っております。至らぬ点ばかりですが今後ともご指導・ご鞭撻の程、よろしくお願いいたします。

27)勝矢脩嵩(大学院生D3、2015年卒)同門会報第34号(2019年12月)より

平成27年に三重大学を卒業後、実家のある広島県に帰郷し、県立広島病院での2年間の初期臨床研修を経て、平成29年の4月に当研究室へ入学しました。臨床研修中に病理学に興味を持ったため、安井教授にご相談し、当研究室で病理診断と研究を同時に学ぶ機会をいただきました。
消化管癌の新規診断、治療標的の探索というテーマの下に研究を続けています。入学後に始めたのは癌の進展と関連の深い遺伝子の検討でした。私はその中でも、Intelectine-1(ITLN-1)という分子に着目しました。ITLN-1は、ガラクトフラノースに結合する分泌型のレクチンタンパク質の一種で、主に腸管の杯細胞から分泌される糖タンパク質です。これまでに炎症性疾患や寄生虫感染に関与すること等が報告されています。一方で腫瘍におけるITLN-1の低発現は、進行期における胃癌患者の予後不良につながることやITLN-1の強制発現は、神経芽細胞腫の増殖、浸潤および転移を抑制することも報告されていました。私はこれらの結果を踏まえて大腸癌におけるITLN-1の発現とその意義を研究のテーマとしました。実験をするにあたり、サンプルの調整、条件検討、予備実験など、結果に至るまでにはいくつもの要所を丁寧に捉えることでより良い結果に結びつくこと、うまくいかなかったときには徹底的に条件を検証することがなにより大事であるということを、様々な失敗を経て学ばせていただきました。これは、好ましくない結果が出た際に、すぐに同じ実験を行うのではなく必ずその原因の検索を行うことや、時には研究の前提としていた仮定の段階まで立ち戻り検討する必要があるという諸先輩方からいただいた助言が土台にあります。私は上記の通り、大腸癌におけるITLN-1の発現と臨床病理学因子との検討を行い、ITLN-1の低発現が大腸癌においても腫瘍の進展に関与すること、独立した予後不良因子であることを明らかにすることができました。大腸腺腫においても異型度に相関してITLN-1の発現が低下することも明らかにできました。以上、大腸癌ならびにその前癌病変である大腸腺腫においてもITLN-1の発現が腫瘍の形成や進行を抑制する可能性がある分子であることを見出すことができました。これらの研究成果を多くの学会で発表させていただき、そのことは非常に大きな経験や学びとなりました。初めて学会で発表した時は緊張のあまり質問された内容を理解することができず、見当外れの回答をしてしまったことを今でも覚えています。しかし、諸先生方からの助言や、何度も練習すること、そして場数を踏むことで徐々に自信を持って発表に臨むことができるようになりました。現在、研究の方は大詰めで大腸癌に置いて高発現しているEGFRとITLN-1の関連を検討中です。この実験が成功すれば、論文投稿に全力を尽くしたいと考えています。
診断と研究の両立は私にとって非常に困難な課題でしたが多くの諸先生方のご助力をいただき、どうにか今日まで診断と研究を両立して過ごすことができています。これもひとえに、このような素晴らしい環境を与えていただいている安井教授、本研究のテーマを提案して下さり、また研究が行き詰まった際には的確なアドバイスをいただける仙谷講師をはじめとする諸先生方の多岐にわたるご指導のおかげです。今後も、病理医として診断と研究を両立できるよう頑張ります。

26)石川 洸(大学院生D4、2014年卒)同門会報第34号(2019年12月)より

平成26年に広島大学を卒業、広島大学病院での研修を経て平成28年4月に広島大学大学院へ入学し、病理診断と病理学的研究のふたつを同時に学ぶ機会をいただきました。入学後は消化器癌の分子病理学的解析による新規診断・治療標的の同定というテーマのもとで研究を行なっています。具体的には、坂本直也先生が留学先のミシガン大学で着目されたAnnexin A10(ANXA10)という分子の検討をさせていただきました。ANXA10はAnnexin familyのタンパクの1つです。Annexin familyはカルシウムイオン依存性にリン脂質に結合するカルシウムイオン結合タンパクの一群であり、全身で細胞増殖伝達や膜輸送制御など様々な機能を有しているとされます。その中でANXA10は正常の胃底腺や十二指腸などに発現しています。近年では大腸の広基性鋸歯状腺腫/ポリープの診断にも有用とされるタンパクで、胃型形質と関連しています。しかし、ANXA10の機能はほとんど解明されておらず、胃癌における粘液形質との関係は知られていませんでした。  ANXA10を通して私の研究生活は始まりました。当初は実験が何か分からなかった私ですが、次第に結果を出す楽しさがわかるようになりました。諸先輩方のアドバイスや伝統として培われた実験環境にただただ驚嘆するばかりでした。
 胃癌におけるANXA10の検討ですが、ANXA10と臨床病理学的因子との検討を行い、ANXA10発現する胃癌が有意に予後良好であること、腫瘍の進展や胃型粘液形質と相関することを明らかにすることができました。さらにANXA10の下流にpancreatic and duodenal homeobox-1(PDX1)という転写因子が関与して胃型形質を発現している可能性があることを細胞株とオルガノイドで示すことができました。これらの成果がOncology Reportsに掲載されることが決まり、私も僅かながら癌研究の進歩に寄与できたことを大変嬉しく感じると共に分子病理学研究室の素晴らしさを感じずにはおれませんでした。
 このANXA10の検討の過程で、幾度となく学会発表の機会を与えていただきました。病理学会総会は固より、日本癌学会や国際胃癌学会での発表は自分の自信をつけることにつながっていきました。更に分子病理学研究会と日本病理学会カンファレンスでは優秀ポスター受賞させていただいたことが何よりも嬉しい思い出です。
 当初は診断と研究の両立は難しく感じていましたが、多くの先生方の支えもあり、ここまで来れています。直近では病理専門医試験も1回で合格でき、専門医試験合格体験記を倉岡和矢先生に続いて執筆させていただきました。これも一重に、常に教室や社会を見て最善を考えてくださる安井 弥教授を始めとして、スタッフの先生方、同門の先生方のご指導のおかげと考えております。
 現在は活動の場を呉医療センター・中国がんセンター 臨床検査科に移していますが、研究マインドを持った臨床をし、研究もしていこうと模索しています。今後は呉地区、広島ひいては日本や世界の病理のために少しでもお役に立てるように精進していく所存です。

25)服部 結(大学院生D4、2011年卒)同門会報第33号(2018年12月)より

私は佐賀県唐津市の出身で平成23年3月に広島大学を卒業し、同年4月から広島西医療センターで2年間の初期臨床研修を行いました。研修終了後は同病院に皮膚科レジデントとして勤め、途中妊娠出産を経て平成26年6月まで皮膚科医として勤めておりました。私は学生の頃より病理に興味があり、皮膚科に勤めてからも、診断の多くの場面で病理診断は治療方針の決め手となっており病理に携われることを楽しみにしておりました。夫が分子病理学教室に入局しいきいきと働いているのをみて、子供を預けて働く貴重な時間に病理をやってみたいという思いが強くなり、安井教授にご相談し、平成26年7月から当教室へ入局させて頂きました。同年10月からは大学院生として勉強できる環境をいただいています。病理医としてまた大学院生として病理診断技術の研鑽と、胃癌の新規診断・治療標的分子の探索というテーマでの研究を行ってきました。当教室の先輩である泌尿器科神明俊輔先生が行われていたRCAN2というたんぱく質の胃癌における発現、機能解析を引き継ぐ形で研究を開始しました。過去に当研究室と消化器移植外科との共同研究の結果KRAS変異型大腸癌では、RCAN2の発現抑制を介したCalcineurin-NFAT経路の脱抑制で細胞増殖が亢進することが発見されました。このたんぱく質の癌に関する報告は数例しかなく、同じ消化管癌である胃癌においてどのような働きをしているかについて検討をすすめることとなりました。研究に関しては岐阜大学から来られていた今井健晴先生に最初にご指導いただきました。外科手術摘出標本、細胞株を材料に免疫染色などを用いてRCAN2の胃癌での機能や発現の意義について検討を行いました。胃癌においては免疫染色の結果からRCAN2蛋白陽性例はKRAS変異型大腸癌とは逆に予後不良因子となっており、機能解析での実験をすすめました。結果RCAN2は胃癌の増殖、浸潤に関与し、胃癌に関して重要な役割を果たしていることを見出すことができました。
この研究結果を携え、病理学会、癌学会等の全国学会で発表の機会をいただき、またHistopathologyに投稿しました。4回目のreviseでacceptされたときはとても嬉しく、医局の先生方にも声をかけていただきありがたい思いでいっぱいでした。このような素晴らしい環境で研究をさせて下さっている安井 弥教授をはじめとし多くの先生方には本当に感謝しております。先生方のおかげで私の研究をかたちにすることができました。大上直秀准教授には研究が行き詰まりかける度に様々な場面でアドバイスをいただきました。仙谷和弘講師には本テーマをいただき、研究をご指導いただきました。坂本直也助教からは研究に対してのアドバイスをいただき、投稿の際にもご相談させていただきました。関野洋平先生には強制発現の実験の際に大変ご尽力いただきました。服部拓也助教には研究の手技や論文の細かな点まで指導していただきました。分子病理学教室で研究させていただけたことを当教室の先生方、同門会の皆様にも深く御礼申し上げます。今後も病理医として研究者として病理学的な側面から病気に対してアプローチしていけるよう頑張ります。

24)谷山大樹(大学院生D4、2012年卒)同門会報第33号(2018年12月)より

平成27年4月に広島大学大学院へ入学後、胃腺腫の癌化に関する検討をテーマに研究を続けてきました。胃腺腫は胃の良性上皮性腫瘍とされているものの、短期間の経過で癌と診断される症例の存在が知られています。胃腺腫が癌化するadenoma-carcinoma sequenceの存在が推定されていますが、腺腫の癌化率は報告により異なります。このように頻度が異なっているのは、腺腫自体の診断基準の相違、対象となった母集団の相違、経過観察期間の相違などが要因とされています。胃腺腫の癌化の危険因子として、陥凹や大きな病変、発赤や絨毛状構造等が指摘されていますが、これらは癌と診断された時点や数ヵ月、数年以前の形態に着目した検討です。そこで、私はより早期の時点から観察し、また、これまで明らかにされていない胃腺腫の癌化における癌幹細胞や腫瘍関連組織球 tumor-associated macrophage(TAM)の役割にも着目しました。陥凹病変や大きい腫瘍径、細胞増殖極性の消失や胃型の粘液形質が危険因子であること、中等度以上の異型とTAMが独立した危険因子であることを明らかにしました。本研究内容を平成30年6月21日~23日に札幌にて開催された第107回日本病理学会において発表したところ、日本病理学会100周年記念病理学研究新人賞を受賞しました。研究内容の詳細は同誌の受賞報告(日本病理学会100周年記念病理学研究新人賞)に記載しています。
本研究を進める中で、長期間腺腫のまま経過する群と短期間のうちに癌と診断される群には、形態には表れない差が初回生検時の段階からあるのではないかと考え、この研究を進めました。Ki-67 labeling indexは先行研究で腺腫の癌化率と関連しないとされていましたが、異なる評価方法を取り入れたところ増殖活性の分布の違いを見出しました。研究当初は腫瘍幹細胞に何らかの違いがあるのではないかと考えて、先行研究にはない蛋白質の発現を免疫染色にて検討しましたが、有意差は認められませんでした。そこで、進行癌において予後との相関が報告されていたTAMに注目し検討したところ、短期間で癌と診断された群の腺腫間質において有意に多く認められ、この結果は、多変量解析の結果でも腺腫異型度と共に独立した危険因子として同定されました。全く新しい知見を見出した時は大変うれしく思いました。 次いで、大腸の腺腫におけるTAMの役割は不明であったため、大腸の腺腫の悪性化におけるTAMの役割に着目しました。内視鏡的に切除された88例の管状または管状絨毛状腺腫を対象とし、TAMの分布について検討しました。24例の軽度異型性腺腫と24例の中等度異型性腺腫を含むL群と、21例の高度異型性腺腫と19例の腺腫内癌を含むH群に分けて検討したところ、腫瘍径の大きさ、絨毛状構造に加えて、TAM数の増加が、H群において有意に高頻度に認められました。TAMと既知の腫瘍関連因子との相互作用を検討するために、毛細血管数、増殖極性、p53蛋白発現との相関を検討した結果、TAMと毛細血管数との間に正の相関が認められました。また、TAM数は増殖極性の消失及びp53蛋白発現とも相関が認められました。以上の結果から、TAMは血管新生や増殖活性、p53蛋白発現と相関しており、大腸腺腫の悪性化の過程に関与することが示唆されました。現在、本研究内容を投稿中です。
大学院に入学してから今日に至るまで、安井教授をはじめとする諸先生方の多岐にわたるご指導を通して大変多くのことを学ばせていただきました。今後もより一層研究に励む所存です。

23)Pham Quoc Thang(大学院生D1、2012年卒)同門会報第32号(2017年12月)より

My study in the Molecular Pathology
My study in medical school has been started from 2006 at the University of Medicine and Pharmacy at Ho Chi Minh city. I have caught curious in the Pathology since I was a third-grade medical student because the Pathology reveals the mechanism of disease behind the clinical manifestations and the idea: “Evidence-based pathology ”. I had become a teaching assistant at Department of Pathology and started my first study in medical science when I was a fifth-grade medical student. These things have made me more and more interest in the Pathology and become a pathologist at Department of Pathology since 2012. During my training time, my slogan is “Experience can be merely the repetition of same error often enough ” -John G. Azzopardi-(1929-2013). Therefore, I have been always learning from my senior as well as updating newest knowledge in diagnostic pathology.
Thank for the Takeda science foundation and Prof. Wataru Yasui, I got a chance to touch in molecular pathology research at Department of Molecular Pathology - Hiroshima University in 2015. In three months, I experienced a lot of interesting research activities and the kindness of laboratory members. Those time help me not only understand about basic medical science but also being attracted by the method which basic study in cancer can rise a new thesis or promote a new therapy or predict patient prognosis.
Again, thank for Prof. Yasui, I have come back and worked as a research student at Department of Molecular Pathology from October 2016. I am excited about basic medical research. I started my study in kidney cancer with the gene BST2. BST2 was well characterized by Dr. Mukai, a previous member our department, in gastrointestinal cancer. Thus, I evaluated the expression of BST2 in renal cell carcinoma. Since this was my first research in the molecular pathology, I got a huge supported by other senior members. The results were already published in Anticancer Research journal in June 2017. In September 2017, I had made a poster presentation at the annual meeting of Japanese cancer association. I got many interesting ideas for my study from other senior researchers. During the conference, I have learned about the current innovation studies in cancer.
From April 2017, I have become a graduate student. I was impressed by the entrance ceremony of Hiroshima University because of the number of graduate students enrolled each year. It makes me proud to be a Hiroshima University graduate student. My current research is the expression of TDO2 in esophageal cancer. TDO2 is the main enzyme in tryptophan catabolism. The metabolism of tryptophan in cancer recently has been proved as a fundamental microenvironmental factor which relates to tumour-associated immunosuppression. My research focuses on the expression and biological significance of TDO2 in esophageal squamous cell carcinoma. The manuscript of the results of TDO2 experiences has been completed.
My future study is the identification and characterization of cancer stem cells associated genes in urogenital cancers. To characterize cancer stem cells, I am going to use spheroid colony formation which established in vivo by plating limited number cells in culture dishes specially coated for non-attachment with serum-free media. Then, I perform microarray analyses both the spheroid body-forming cells and the parental cells. To identify ideal therapeutic targets for cancer stem cells, I focus on the genes whose expression is high in the spheroid body-forming cells. These finding could be new potential therapeutic targets for urogenital cancers.
Accompany through my journey in studying is my lovely family. We now together live at Hiroshima city international house. Where we have changed to participate in many cultural activities. Our family life in Hiroshima city is very beautiful. On the other hand, I appreciate the warm support and the kindness of all laboratory member from the bottom of my heart. Above of all make a great effort for me continuing my study in the molecular pathology. I am looking forward taking new research that the results would help improve the current treatment of cancer.

Pham Quoc Thang

22)関野陽平(大学院生D4、2007年卒)同門会報第32号(2017年12月)より

平成26年10月に広島大学大学院医歯薬保健学研究科に入学し、現在、大学院4年生の関野です。私は分子病理学教室に来させていただく前に、国立がん研究センター中央病院で泌尿器科のレジデントとして働いており、その際に病理で研修する機会がありました。それまで、外来業務、手術で癌の治療に携わってきましたが、実際、手術をした臓器を自分で診断することで、より包括的に癌をとらえることができ、病理の重要性を感じました。こういった経験があり、泌尿器科領域の癌研究および病理診断を平行して学ぶことができる当研究室に入学させていただきました。
 入学後に最初に与えられた研究テーマは前立腺癌におけるPCDHB9の発現および機能解析でした。PCDHB9はCAST(Escherichia coli ampicillin secretion trap)という、網羅的遺伝子解析法を前立腺癌細胞株で施行した結果、同定された遺伝子で、主に神経に発現していますが、これまで癌における解析は報告がないものでした。PCDHB9の解析においては免疫染色、qRT-PCR、western blot、細胞培養、遺伝子導入と幅広い基礎実験を学ぶことができました。実験を行う上で、分子病理学教室にはたくさんの大学院生、また指導して下さるスタッフが多く、このしっかりとした指導体制の下で、実験方法をしっかりと予習し、準備すること、また得られた結果をどのように解釈するか、そして、次にどのように実験を進めていくかを学ぶことができました。研究がうまく行かない際に相談できる相手が近くにいることは、非常にありがたいことであると実感しました。PCDHB9は胃癌、前立腺癌において、免疫染色で癌に高発現しており、陽性症例が予後不良であること、またインテグリンを介して癌の接着に関与している点は共通していましたが、前立腺癌においてはアンドロゲン受容体に関与している可能性があることを明らかにしました。現在は薬剤耐性に関与しているかどうかを検討しています。
また、前立腺癌におけるT-UCR(transcribed ultraconserved region)の研究もさせていただいています。T-UCRは転写超保存領域と呼ばれるlong non-coding RNAのひとつです。Non-coding RNAは蛋白をcodeしておらず、これまで機能のないジャンクRNAと考えられていたものです。一般的にnon-coding RNAは生物種間では10%程度が共通した領域であるのですが、T-UCRはこの共通した領域に存在し、これまで481領域が同定されています。私はこの481領域で63番目の領域(Uc.63+)が前立腺癌で高発現していること、前立腺癌の増殖、浸潤に関わっていることを明らかにしました。さらにUc.63+はdroplet digital PCRという新しい手法を用いて血清レベルで検出可能であること、ドセタキセル治療における効果予測バイオマーカーとして有用であることを明らかにしました。この研究内容についてワシントンで開催された2017年のAACR annual meetingで発表させていただきました。国際学会での発表は初めてでしたが、すべてが新鮮で非常に勉強になりました。特に英語でのプレゼンテーションは、自分の語学力の拙さを再認識させられるもので、英語の勉強の良い刺激となりました。それでも、学会会場では、なんとかコミュニケーションがとれて、基礎研究は世界共通のものだと実感させられました。
 基礎研究と平行して病理診断も勉強させていただいています。切り出しから担当し、肉眼像と組織像を比較して観察することができ、大変勉強になっています。病理診断は主に仙谷先生から指導をいただいていますが、非常に丁寧に指導して下さり、教科書からは得られない知識を得ることができ、このような経験が、患者に病理診断を伝えるといった際に、説得力をもって伝えることができ、自分の臨床に生かされていることを肌に感じています。また、最近では泌尿器科からも病理報告書では分からないところをプレゼンして欲しいとの依頼をもらうようになり、大変ではありますが、病理と泌尿器科の相互理解が深まることの一役を少しは担えているのかと思っています。
 これまで3年間の研究生活を送らせていただきましたが、基礎研究に病理診断と非常に充実した期間であったと実感しています。このような機会を与えていただいた安井 弥教授をはじめ、スタッフの先生方に、この場を借りて深く感謝申し上げます。当研究室におけるこれまでの泌尿器科の先輩方の歴史を汚さないように、これからも頑張っていきたいと思います。

関野陽平

21)重松慶紀(大学院生D4、2007年卒)同門会報第32号(2017年12月)より

私は平成19年に香川大学医学部を卒業後、県立広島病院で2年間の初期臨床研修を修了したのち広島大学腎泌尿器科に入局し、6年間臨床で研鑽を積みました。そして、平成26年10月に当広島大学分子病理学教室の大学院に入学させていただき、その後は膀胱癌における新規バイオマーカーについて研究を続けています。膀胱癌は近年、他のがんと同様に遺伝子学的な解析の報告が増えており、筋層浸潤膀胱癌では乳癌における分類に類似したbasal/ luminal typeによる分類が提唱されてきています。Basal typeはより予後の悪いタイプであり、扁平上皮分化がより多く含まれることや、EGFR経路の活性化、上皮間葉転換などの特徴が指摘されています。しかし、詳細な進展のメカニズムや、有効な分子標的はいまだ確立されていません。私が大学院入学後に始めたのは、諸先輩方がこれまで多大な労力を注ぎ行ってこられたSAGE法(serial analysis of gene expression method)により同定されたSPC18という分子についての研究です。SPC18は胃癌のhigh stageで発現が上昇していることを当教室が初めて指摘した分子です。もともとタンパクの成熟や分泌に関わる分子として知られていましたが、癌における機能は全く知られていませんでした。大上先生方の検討で、胃癌においてその発現は予後と相関し、機能解析においてはTGF-αの細胞外への分泌を促進し、そのレセプターであるEGFR経路を活性化することで胃癌の進展に寄与するということを発見し、2014年にOncogeneに報告されました。この中でEGFR経路の活性化に着目し、“SPC18が膀胱癌においても、EGFR経路の活性化を通して、癌の進展に寄与している可能性について”を研究テーマとし、これまで検討してきました。
私の検討では、膀胱癌において、正常組織と比較しSPC18の発現が上昇しており、その発現は予後不良と相関し、膀胱癌においてもEGFR経路を活性化することで増殖能・浸潤能に影響を与えていることを見出しました。さらにその発現はbasal type膀胱癌の特徴である扁平上皮化生陽性例やCK5/6の発現とも相関し、SPC18の強制発現株では上皮間葉転換のマーカーが上昇していることもわかりました。
この研究結果を携え、本年の4月にはワシントンDCで行われたAACR 2017(American Association of Cancer Research)で発表する機会をいただき、さらには先日行われました泌尿器科の学会では、ヤングウロロジストリサーチコンテストにおける英語でのプレゼンテーションで優秀賞をいただくことができました。このような、海外で研究成果を発表したり、賞をいただけるような研究者になれるとは以前の私では考えられなかったことです。
他教室のスタッフである私に分子病理学教室で最良の研究環境をお与えくださっている安井弥教授を初め、臨床家で研究のことは何も理解していなかった私に研究のイロハから論文の執筆まで熱心に指導してくださっている大上直秀准教授、顕微鏡の使い方から泌尿器臓器の病理診断を丁寧にご指導くださっている仙谷和弘講師、同世代でありながら優れた研究者としてのお手本を示してくださる坂本直也助教、当教室の皆さま、同門会の皆さまに深く感謝申し上げたいと思います。臨床と基礎の懸け橋となるべく今後とも精進していきたいと思います。

重松慶紀

20)服部拓也(大学院生D4、2011年卒)同門会報第31号(2016年12月)より

私はH23年に広島大学を卒業後、広島西医療センターでの研修を経て平成25年の10月に広島大学院へ入学し、病理診断と研究を同時に学び始める機会をいただきました。入学後は消化管癌の新規診断、治療標的の探索というテーマの下に研究を続けています。まず入学後に始めたのは諸先輩方が多大な労力を持って作成された自家マイクロアレイ解析によって得られた癌の進展と関連の深い遺伝子の検討でした。この自家マイクロアレイにはSAGE法等で同定された遺伝子が対象となっていました。私はそうして得られた分子の一つであるSPC18という分子の検討を引き継がせていただきました。Signal peptidase complex(SPC)18は多くの分泌蛋白の成熟過程において重要な機能を担う分泌蛋白制御蛋白であることが知られていますが、癌との関連やその標的蛋白などは当研究室で胃癌の進展との関連が深い遺伝子として同定された際には全く知られていませんでした。その後世界に先駆けて当研究室より2014年にoncogeneにTGF-αを介して胃癌との関連が深いことを報告されています。当時の先生方の話を伺うにつけ、一つの分子に辿り着くまでの果てしない道のりにはただただ頭の下がる思いでした。実験をするにあたり、サンプルの調整、条件検討、予備実験など、結果に至るまでにはいくつものポイントを丁寧に抑えていくことがより良い結果に結びつくこと、うまくいかなかったときには徹底的に条件を検証し、どこまで立ち戻るべきかをしっかりと見極めることがなにより大事であるということを、身をもって学ばせていただきました。好ましくない結果には必ず何らかの原因があるはずであり、仮定が間違っている可能性や自分の手技の未熟さも合わせてしっかりと考えた上でもう一度やり直すのか、別の手を考えるのかを判断することが大事であるという先輩の言葉が印象に残っています。私はこの研究室で大腸癌におけるSPC18の発現と臨床病理学因子との検討を行い、SPC18が大腸癌においても腫瘍の進展に関与すること、独立した予後不良因子であること、Wnt-βcatenin経路関連蛋白と共局在傾向にあること、adenoma-carcinoma-pathwayに沿って発現が亢進していることを明らかにすることができました。これらの研究成果を多くの学会で発表させていただき、そのことは非常に大きな経験となりました。学会は毎回緊張の連続であり、最初の学会では質問された内容を理解することもできなかったことをよく覚えています。しかし回を重ね、先輩や同僚の先生方の発表を見て学ぶことを続けたことにより徐々に自信と落ち着きが持てるようになりました。中でも第24回日本がん転移学会において優秀ポスター賞を頂き、またそれをその場におられた同門の大先輩である國安先生、北台先生に祝っていただけたことは何よりうれしい思い出です。また、これらの研究成果がCancer Scienceで掲載されることが決まった際には本当にうれしく思うと同時に当教室のすごさ、深さを改めて感じることができました。
診断と研究の両立は私にとって非常に困難な課題でしたが本当に多くの先生方のご助力をいただき、どうにか今日まで病理医兼大学院生として過ごすことができています。これもひとえに多くの学会への参加、発表から普段の何気ない環境整備に至るまで、私達院生のために常に最善を考えてくださる安井 弥教授を始めとして、私が困っているときにいつも何気ない調子で素晴らしい解答に導いてくださる大上直秀准教授、論文の執筆、地方会での発表、大学病院・医師会での病理診断に至るまでありとあらゆる面でご指導いただきました仙谷和弘講師、常に教室のためを思って行動する背中を見せてくださる坂本直也助教、常日頃から診断や病理医としての在り方をご指導してくださる岩本俊之先生、谷山清己先生、佐々木なおみ先生達同門の先生方のおかげです。この場をお借りして深く感謝申し上げますと共に、当教室、ひいては広島あるいは日本の病理のために少しでもお役に立つことができるよう日々精進していく所存です。

神明俊輔

19)向井正一朗(大学院生D3、2006年卒)同門会報第30号(2015年12月)より

平成25年4月に広島大学大学院へ入学後、胃癌の遺伝子異常の解析をテーマに研究を続けてきました。まず始めたのは、諸先輩方が多大な時間と労力をもって確立されたCAST(Escherichia coli ampicillin secretion trap)の研究を引き継ぎ、胃癌で高発現する分子を同定、新規バイオマーカーとしての可能性の検討、というテーマです。当時の先生方の話を伺うにつけ、ひとつの分子にたどり辿り着くまでの果てしない道程にはただただ頭の下がる思いでした。実験をするにあたり、サンプルの調整、条件検討、予備実験等、結果に至るまでにはいくつものポイントを丁寧に押さえていくことがよりよい結果に結びつくこと、何よりうまく行かなかったときにどこに立ち戻るべきか考える、ということを身を以て学ぶことができました。私はそのようにして得られたCAST libraryを解析して、BST2(Bone marrow stromal cell antigen 2)、PCDHB9(Protocadherin beta 9)という分子が胃癌で高発現していることに着目し、胃癌における発現プロファイルおよび分子生物学的な機能解析を行なっています。
 BST2は肺癌や子宮内膜癌、乳癌などで癌との関わり・機能に関して報告がありますが、消化管に関しては一切報告がなく、こと胃癌に関しては未知の領域でした。BST2は癌において増殖に関与しており、その経路はEGFRのsignal pathwayであるということ、またその発現は独立した予後因子となることを明らかとしました。また、PCDHB9に関しては、癌との関わりはおろか、その機能に関して検討した報告が一切ないという分子でした。そのため、BST2の研究で培った実験ノウハウ、知識を総動員して実験に当たらないといけない状況でした。その結果、PCDHB9は主に細胞接着に関与する分子であり、インテグリンα5を介して接着に関与するということ、分化型腺癌において高頻度に発現していることから腫瘍細胞の分化に関与している可能性まで明らかとしました。現在は私の出身母体であります第2外科と協力しヌードマウスを用いた異種移植モデルを作成し分化に関する機能について研究しています。
 これまでの約2年半の研究生活の中では、単に自分のために研究するだけでなく、後輩や医学研究実習で来られた学生たちを実際に指導する機会をいただきました。人に教えて実際に実験を行わせるにあたり、何より大事なのはその実験行程・意義・その他周辺知識にいたるまで自分がきちんと理解していなければ人に教えて実際に行わせることは不可能であるということを改めて学びました。そのような中で2014年度の医学研究実習において私が指導した藤木佑斗君が優秀発表賞を受賞した際には自分のことのようにうれしく、自分たちの努力が少しでも報われたと感じたのを今でも感慨深く思っています。
 多くの学会へ参加、発表をさせていただき、多くのチャンスを下さった安井 弥教授、研究・病理診断に関し熱心にご指導いただいた大上直秀准教授には心より感謝申し上げます。

神明俊輔

18)後藤 景介(大学院生D4、2004年卒)同門会報第29号(2014年12月)より

平成23年10月に大学院入学後、前立腺癌の遺伝子異常の解析をテーマに研究を続けてきました。まず始めたのは、諸先輩方が多大な時間と労力をもって確立されたCAST(Escherichia coli ampicillin secretion trap)の研究を引き継ぎ、前立腺癌で高発現する分子を同定、新規バイオマーカーとしての可能性の検討、というテーマです。当時の先生方の話を伺うにつけ、ひとつの分子にたどり辿り着くまでの果てしない道程にはただただ頭の下がる思いでした。私はそうして得られたCAST libraryを解析して、oligophrenin-1という分子が前立腺癌で高発現していることに着目し、前立腺癌における発現プロファイルおよび分子生物学的な機能解析を行ないました。実験をするにあたり、サンプルの調整、条件検討、予備実験等、結果に至るまでにはいくつものポイントを丁寧に押さえていくことがよりよい結果に結びつくこと、何よりうまく行かなかったときにどこに立ち戻るべきか考える、ということを身を以て学びました。得られた研究成果を学会で報告し、そこで新たな課題や着眼点に気づかされながら、基礎知識ゼロから始まった自分が少しずつ知識を身につけることができました。第33回国際泌尿器科学会(SOCIETE INTERNATIONALE D'UROLOGIE; SIU)など国内外の多くの学会へ参加、発表をさせていただき、多くのチャンスを下さった安井教授には心より感謝申し上げます。
 そして引き続いて、現在は胃癌、前立腺癌を対象に非翻訳RNAの一種である転写超保存領域(Transcribed Ultra-Conserved region; T-UCR)の発現、機能解析という新たなプロジェクトに取り組んでいます。T-UCRとはヒトやマウスなど、生物種をこえてほぼ100%同一の配列を有する領域として定義づけられているもので、近年T-UCRのがんにおける発現異常が知られるようになってきました。しかしながら得られている知見はまだ少なく、既知の分子とどのような結びつきをしているかはほとんど分かっていない領域です。研究を始めるにあたり、最初は何をどうするものかわからないまま時間が過ぎてしまいました。安井教授をはじめ教員の先生方から助言をいただきながら、癌と正常組織を用いqRT-PCRでの発現比較から発現異常のある領域を絞り込み、それぞれについてDNAメチル化の関与や、microRNAとの相互作用を証明するに至りました。ひとつの現象を確かめるにあたり、どのような実験系を組めばよいか、そのために妥当なサンプルはどれか、予備実験から適切な条件の決定、本実験と計画を立て、つまづくことばかりの中でふと訪れるブレイクスルーの瞬間は何より嬉しいことを知ることができました。そして何より、行き詰まってしまったときや分からなくなったときに研究室の仲間とのディスカッション、他愛ない会話でヒントを得、元気づけられたことが最もありがたいことでした。その仲間が分子病理学を巣立ち、国内外の最先端の施設でさらなる活躍を続けていることは、とても嬉しく誇らしく思います。私もそれに続いていけるよう、今後とも精進し自分の後輩へも繋げていき、分子病理学研究室の発展に貢献したいと考えています。

神明俊輔

17)神明俊輔(大学院生D3、2003年卒)同門会報第28号(2013年12月)より

平成23年7月より分子病理学研究室の門を叩いてから、はや2年半が経過しました。これまで8年間泌尿器科医として実臨床にかまけ分子生物学的知識はほぼ皆無の状態でしたが、泌尿器科領域にも多くの分子標的薬が導入され分子病理学の知見は実臨床にとっても必要不可欠なものとなっており分子病理学を一から勉強する為に安井弥教授、松原昭郎教授の御高配を賜り分子病理学研究で勉強させて頂くことになりました。
私が最初に頂いたテーマは「腎細胞癌におけるmicroRNAの発現」についてでした。microRNAの中でも特にmiR-155に注目し腎細胞癌での発現と臨床病理学的因子との関連について検討を行いました。同じく泌尿器科から来ている後藤先生と共にまず広島大学泌尿器科で手術が行われた150例の腎細胞癌の予後を含めた臨床病理学事項のデータを調べていくところから研究は始まりました。予想以上にデータの不備や欠損が多く古いカルテを引っ張りだし、他施設にも協力して頂きなんとか予後調査をすませ、150例の腎細胞癌のパラフィン切片から癌部と非癌部合わせて300サンプルのmicroRNAを抽出していきました。同じく泌尿器科から来ている後藤先生と二人で黙々と爪楊枝でサンプルを削り取りmicroRNAを抽出し逆転写反応からqRT-PCRを行い臨床病理学的因子との検討を行いました。結果としてmiR-155は腫瘍径と正の相関があること、これまでの報告とは異なりmiR-155は進行腎細胞癌において腫瘍抑制的に働くことが示されました。分子標的薬の登場で進行腎細胞癌の治療の選択肢は増えたものの、充分な治療効果を得ているとはいい難く、miR-155は今後の治療標的や予後予測因子となりうることが示唆されました。この内容については様々な学会で発表させて頂く機会を頂き、またH24年度の泌尿器科同門会賞にも選ばれました。
 現在は先任の林哲太郎先生がCAST法によって同定された前立腺癌で特異的に発現する遺伝子の中からphosphatase of regenerating liver 1(PRL1)に着目し機能解析を行っています。限局性前立腺癌の場合、一般的に外科的切除や放射線治療が適応となり根治が望める場合が多いのですが、診断時遠隔転移を有する症例は全体の約 30%を占めおり治療法としては内分泌療法が第一選択ですが多くの症例は内分泌療法抵抗性、再燃前立腺癌となり一般に抗癌化学療法が選択されます。しかし抗癌化学療法(ドセタキセル)の無増悪期間が3~11ヶ月と、必ずしも満足される状況ではありません。このことから現在再発を予測しうるバイオマーカーの探索と内分泌療法抵抗性前立腺癌の治療標的を開発することが必要とされています。PRL1はCAST法においてアンドロゲン非依存性前立腺癌細胞株DU145に特異的に発現しており内分泌療法治療抵抗性前立腺癌の治療標的や予後予測因子となる可能性があると考え着目し解析を行ってきました。前立腺組織の免疫染色においてPRL1の発現は明らかに予後不良因子となっており、前立腺癌細胞株においてPRL1をknockdown(又は強制発現)行うと増殖能、浸潤能、遊走能の低下(又は上昇)を認めました。増殖浸潤遊走能と内分泌療法抵抗性に関わる分子としてEGFRの関与が知られており、PRL1はEGFRを制御する可能性があると考えEGFRシグナルの解析を行ったところ、PRL1をKnockdownすることでEGF刺激によって引き起こされるEGFRシグナル下流の分子の活性化が低下するデータを得ることができました。EGFRシグナルの解析については奈良県立医科大学國安教授の多大な御助言と御助力を頂きました。このデータを元にさらにmatrix metalloproteinase 9(MMP9)の発現についても検討しPRL1はMMP9の発現も制御するという結果を得ることができました。これらの結果からPRL1は内分泌療法抵抗性前立腺癌の治療標的や再発の予後予測因子として有用であると考えられ現在論文作成中です。
 安井教授、大上准教授、仙谷講師にはなにも知識のない私を一から丁寧に指導して頂き、基礎医学研究とその考え方を学ばせていただきました。また一緒に研究をしている院生の方々に多くの面で助けられ心から感謝しています。これからさらに研究に励み引き続き論文作成や現在のテーマに精一杯取り組んで参りたいと思っています。

神明俊輔

16)坂根潤一(大学院生D3、2001年卒)同門会報第27号(2012年12月)より

私は、国立病院機構 呉医療センター・中国がんセンター 病理診断科に勤務する臨床検査医技師です。主に、病理組織標本作製や細胞診断業務に携わっています。2010年4月より安井教授と谷山先生のご高配を賜り、分子病理学研究室の大学院生として勉強させてもらっています。大学院に入学し早2年6カ月がたちました。現在、大学院3年生となり日々の病理検査業務と研究の両立に多少慣れ、充実した毎日を送っています。
大学では、1年生の時には勤務終了後の夜間を中心に多くの講義を受講し、2年目以降は毎週土曜日に研究報告会と抄読会に参加させていただいています。この抄読会では、最新の研究報告が勉強でき、先端の実験手法など多くの知識が得られます。まだまだ、すべてを理解するには至りませんが皆さんの非常に分かりやすい解説を聞き徐々に理解を深めています。研究報告会では、安井教授をはじめ大上先生や他の先生方に的確なアドバイスを頂き微力ながら研究も着実に前進していると実感していす。
 私の研究テーマは、液状細胞診検体を用いたDNAメチル化異常の検討です。研究に用いた検体は、呉医療センター・中国がんセンター臨床研究部長の谷山先生が中心となって行われた多施設大規模共同研究(CCLBC)で収集された11039例から抽出しました。そして、CIN1と診断されHPV陽性である283例の中からCIN2へ“進行する症例”と“進行しない症例”を各40例抽出しました。抽出したCIN1病変のDNAメチル化異常を解析し、病変進行を予測する新たな遺伝子マーカーを発見することを目的として研究を進めています。CCLBC研究は、中国地方の10施設が参加し、子宮頸部細胞診において従来法および液状検体法(TP法)の両者を用いてベセスダシステムを運用し、併せてHPV感染状況などを詳細に解析した研究です。この研究から得られた多くの情報は、私の研究を進める上で非常に大きな柱となっています。CCLBC研究に登録された患者の経過観察は、継続して行われており現在約5年以上の臨床データが蓄積されています。本研究室に入学してから、多くの学会に参加し発表させていただきましたが、この蓄積された臨床データは他にはない貴重な宝であることを肌で感じています。
本研究の進捗状況では、病変進行に伴い異常メチル化頻度が高くなることを見出しています。そして、あるマーカーを用いてメチル化異常を見たところ“病変が進行しないCIN1症例”と“進行するCIN1症例”とで有意な差が認められました。さらに、免疫組織化学染色にて癌細胞でタンパク発現の低下を確認しました。現在は、そのタンパク発現が異常メチル化によるものかどうかを検討するために、癌細胞株を用いて脱メチル化剤を利用し追加実験を試みています。
この2年半を振り返ると、知識の浅いまま入学したにも関わらず、安井教授、谷山先生、大上先生を始め、多くの先生方に優しく支えられ、実験の楽しさや常に向上心を持って物事に取り組むことの大切さを実感しています。これまでの研究成果を論文という形で完結できるよう努力すると共に、臨床の現場で生かされるような研究成果を出したいと考えています。

坂根潤一

15)内藤 寛(大学院生D2、2009年卒)「日本学術振興会特別研究員DC2に採用されて」同門会報第27号(2012年12月)より

この度、平成25年度採用分の日本学術振興会(JSPS)特別研究員DC2に採用内定となりました。特別研究員制度とは、日本学術振興会研究者養成事業の一環であり、採用者は研究奨励費という名目での給料に加え、研究費が支給されます。これにより、自らの研究課題に専念できる環境を与え、優秀な人材を育成することを目的としています。申請者は、身分に合わせて申請する枠が異なり、SPD、RPD、PD、DCの4つの枠が設定されています。博士課程の大学院生は、DC(こちらもDC1、DC2に細分類)に申請する形となりますが、毎年約8000人の応募がある内25%程の採用と非常に厳しい採択率となっています。しかしながら、DCに採用された場合には、採用期間中の2~3年間、毎月20万の研究奨励金と年間100万円以下の研究費をいただくことができ、この上ない条件下で大学院での研究・勉学に打ち込むことができます。
 私は学部生の頃から、大学院博士課程で研究する際には、是非ともこの特別研究員に採用されたいと考え続けてきました。奨励金という名目で給料が支給されることも理由の一つでしたが、何よりも将来研究者として成功するための通過点として目標に掲げることで、自らの努力を怠らないようにすることが一番の理由でした。また、歴代の特別研究員取得者には、数々の有名な先生方が名を連ね、これまでに素晴らしい成果をあげられておられます。私もそのような方々が通られてきた道を進み、今後の研究に対するモチベーションにつなげて行きたいと思っていました。そのため、この度の採用内定が決まった時、本当に、心から嬉しく思いました。
 実は、昨年も同じく特別研究員制度に申請させていただいたのですが、その際は面接試験で不採用となりました。博士課程在籍中は何度かチャンスはありますが、2回目以降の申請では学術業績が非常に重要視される傾向にあり、採用される確率が極めて低いと考えられていました。そのため、それまでずっと目標にしていた特別研究員制度でしたが、一度は諦めようと考えたこともありました。しかしながら、昨年度の申請の際にご助力頂いた方々のご恩に報いたい思いがあり、再度申請をさせていただきました。また、もう一度申請したいという旨を安井教授にお伝えした際、「是非、頑張って下さい!」と温かく受け入れて下さり、非常にお忙しいにも関わらず、再度評価書を書いて下さったことが、大きな心の後押しとなりました。今思えば、あの時に諦めなくて本当によかったと感じています。
 これまでの特別研究員の申請において、安井教授、医局の先生方をはじめ多くの方々に、申請書の作り方や面接試験のご指導等をいただきました。この度の採用で満足するのではなく、ようやく手に入れられたチャンスと考え、より一層研究に励み、精進したいと考えています。

内藤寛

14)Htoo Zarni Oo(大学院生D2、2009年卒)同門会報第26号(2011年12月)より

I am honored to become a doctoral student in Department of Molecular Pathology, Hiroshima University, in April 2010. Time flies quickly, as one and a half years have passed already. When I enrolled, there have established a new technique, CAST (Escherichia coli ampicillin secretion trap) method that is a powerful strategy to identify transmembrane and secreted proteins. CAST is a survival-based signal sequence trap method, with pCAST vector, containing kanamycin resistance gene and mutant β-lactamase lacking the endogenous signal sequence. cDNA library, reverse transcribed from mRNA, is ligated into pCAST vector and if it is transfected successfully into bacteria E.coli, the β-lactamase gained ampicillin resistant activity and colony can survive on ampicillin agar. Then surviving colonies are picked up and gene transfection is confirmed by PCR before sequenced them eventually. In my study, transmembrane proteins present in scirrhous type gastric cancer (GC) is emphasized and CAST libraries from 2 human scirrhous type GC tissues were generated. About 3,000 ampicillin-resistant colonies from CAST libraries were sequenced and compared these sequences to those deposited in the public databases using NCBI. Candidate genes were listed-up while excluding those detected in normal gastric mucosa. Among them, TM9SF3 (transmembrane 9 superfamily member 3) is the most detected clone in present study, which is one of the transmembrane 9 superfamily members and there is no report about correlation between the gene expression and human cancers yet. Next, TM9SF3 positive gastric cancer cases are frequently having poor prognosis. Besides that, I got opportunities to do poster and oral presentation in international congresses like 9th IGCC (Korea, Seoul), 8th ISMRC (Osaka), Japanese Cancer Association and Japanese Society of Pathology and so on. Last but not least, I am very grateful to each and every member of Molecular Pathology Department, especially to Professor Wataru Yasui, Associate Professor Naohide Oue for accepting me as a graduate student, as well as giving me an excellent mentorship throughout my study. I have dedicated to do my best with interest and motivation in research and study.

Htoo Zarni Oo

13)内藤 寛(大学院生M2、平成21年卒)同門会報第25号(2010年12月)より

医歯科学専攻修士課程M2の内藤です。分子病理学研究室に来て早いもので1年と8ヶ月が過ぎました。学生時代を過ごした県立広島大学生命環境学部生命科学科では、遺伝子のプロモーター解析の研究をしていたこともあり、安井教授から「消化器特異的遺伝子であるREG4の発現調節機構解析」という研究テーマをいただきました。最初は異なる研究環境下で戸惑うことも多かったのですが、大上先生をはじめ諸先生方に丁寧に教えて頂き、現在では朝から夜遅くまで楽しく研究、勉強に励んでいます。
 REG4という遺伝子は、当研究室で行った胃癌組織サンプルを用いたSAGE法により、胃癌で発現が亢進するものとして同定されました。これまでの当研究室での検討並びに共同研究結果から、Reg IVは癌において、EGFRを介したアポトーシス抑制、腹膜播種転移に関与することが見出され、癌の悪性化に極めて重要であることが示されました。また免疫染色での検討により、Reg IVが腸型形質を有する細胞で発現し、腸の転写因子であるCDX2が陽性の細胞は、Reg IVも陽性であることが明らかとなっていました。そこで私たちは、Reg IVの発現調節機構について解析を行っています。REG4遺伝子上流2000塩基を解析すると、CDX2のコンセンサスシークエンスが4カ所見いだされました。続いて、REG4遺伝子の上流約2kbと、そのDeletion Mutantのレポーターベクターを構築し、ルシフェラーゼアッセイを行いました。その結果、遺伝子上流約0.65kbまでの間に、REG4の転写に重要な領域が存在するというデータが得られています。さらに、各予測CDX2コンセンサスシーケンスに変異を加えると、レポーターの活性が顕著に抑制される領域が存在することが分かりました。現在は、クロマチン免疫沈降によりREG4の上流配列にCDX2が結合できるかどうかを検討しています。しかし、この解析がなかなかうまくいかず、悪戦苦闘しているところです。このテーマに関しては、未だ論文として発表できるレベルにまで至っていませんが、精一杯取り組みたいと考えています。来年4月からは博士課程に進み、癌を学ぶにあたって最高の環境である当分子病理学研究室で、引き続き研究者としての資質を磨いていく所存です。

内藤 寛

12)若松 雄太(大学院生M2、平成21年卒)同門会報第25号(2010年12月)より

平成21年4月から分子病理学研究室で勉強させていただいて、はや1年半が過ぎました。研究では、「胃癌の原発巣とリンパ節転移巣における粘液形質発現およびCancer stem cell makers 発現に関する免疫組織化学的検討」というテーマをいただき、胃癌の原発巣とリンパ節転移巣における各粘液形質マーカー(MUC5AC、MUC6、MUC2、CD10)の発現の比較、Cancer stem cell(癌幹細胞)マーカーとして知られているALDH1、CD44、CD133発現との関連という2つの事項について検討しています。私は薬学部出身であり、研究を始めた当初、過去に顕微鏡を使ったことがほとんど無い状態でしたので、使用方法がままならず見たい視野と逆に動かしたり、動かす速度が速すぎて10分も経たないうちに激しい眩暈を起こしてしまうという状態でした。しかし、仙谷先生、坂本先生に顕微鏡の使い方をはじめ、正常部と腫瘍部の違いについて一から懇切丁寧にご指導していただき、今では胃癌の組織型の違いまで見られるようになりました。胃癌をはじめ、がんは全身性疾患であり、原発巣よりも転移巣が病態に影響を及ぼしますが、転移巣における分子病理学的解析は十分になされているとは言い難いのが現状です。一方で胃癌では、腺管構築を指標とした組織分類に加え粘液形質発現による分類がなされ、メチル化や遺伝子変異等の分子病態との相関が指摘されています。私は、胃癌の原発巣とリンパ節転移巣における粘液形質発現の比較を行い、さらに、癌幹細胞マーカーに関する免疫組織化学的な検討も行なっています。これまでに得られた結果では、胃癌全症例の60%が原発巣・リンパ節転移巣ともに同じ粘液形質を示し、粘液形質が変化した症例に関しては分類不能型に変化する頻度が高い傾向が見られました。また癌幹細胞マーカーの原発巣と転移巣における発現を比較した結果、ALDH1がリンパ節転移巣で有意に高頻度に陽性を示し、特に低分化癌で有意な差を認めました。この知見から、転移巣の制御において分類不能型胃癌の特徴に関して検討することが重要であり、癌幹細胞マーカー分子では、ALDH1が腫瘍の進展に寄与していることが考えられ、これからの診断・治療に貢献できることを期待しています。この1年半を振り返りますと、全く知識の無い状態で入学したにも関わらず、安井教授、大上講師を始め多くの先生方に支えられ、実験の楽しさや常に向上心を持って物事に取り組む姿勢の大切さを学ぶことができました。これからは研究成果を論文という形で完結できるように努力する所存です。

若松 雄太

11)阿南 勝宏(特任助教、平成13年卒)同門会報第25号(2010年12月)より

平成19年10月に広島大学大学院へ入学後、一貫してCAST(Escherichia coli ampicillin secretion trap)法という網羅的遺伝子発現解析法を用い、胃癌に特異的な膜蛋白質、分泌蛋白質の新規同定に関する研究を行ってきました。CAST法とは、シグナルシークエンスを欠損させたアンピシリン耐性遺伝子(βラクタマーゼ遺伝子)を含む特殊なベクター(pCAST)にサンプルから抽出したcDNAライブラリーを組み込み、大腸菌へ導入した後にアンピシリン含有培地で選択し、生存できたコロニーに組み込まれた配列を解析する方法です。大上 直秀先生が中心となって行われたSAGE法に引き続く網羅的遺伝子発現解析法として期待が大きかったものの、CAST法も最初から順風満帆というわけではありませんでした。既に大学院の先輩でもある大原慎也先生、坂本 直也先生、林 哲太郎先生らが着手されていましたが、当初は培地にコロニーが全く形成されませんでした。うまくいかないときには、試薬の濃度を変えてみたり、反応させる時間を変えてみたり、扱う人間を変えてみたり…と時にはとても論理的、科学的とは言えないようなことも含めて改良を重ねていき、少しずつ自分たちなりの手法を確立していきました。最初にコロニーが大量に形成されたときの喜びは今でも覚えています。その後はひたすらコロニーを回収、培養し、PCRによるバンドの確認の繰り返しであり、昼夜を問わず実験を行いました。この頃は、右手が腱鞘炎になって痛むこともありましたが、回収したクローン数が増えていくことの方がはるかに大きな喜びでした。PCRでバンドが確認されたクローンだけを再回収してシークエンスを行い、NCBIのデータベースと照合して遺伝子を同定、その後はそれぞれの遺伝子についてhomologyチェック、局在の確認等・・・と書いてしまえば簡単ですが、実際は多くの時間と労力をかけていたと思います。私達は除外したクローンなども含めると約1万クローンを回収したことになりますが、今思えば充実した日々を過ごしていたと懐かしく感じられます。このような経過を辿りながら、正常胃と2種類の胃癌細胞株(MKN-1、MKN-28)から得たCAST libraryから多くの遺伝子を抽出することができました。それらの候補遺伝子については、上位のものから定量的RT-PCR法を用いて胃癌組織などにおける発現を確認していきました。私は、それらの遺伝子群から、デスモソーム構成因子の1つであるdesmocollin 2(DSC2)という遺伝子の胃癌における発現について解析し、DSC2と腸型形質を有する胃癌との関連を明らかにすることができ、Journal of Pathologyに報告しました。
 この論文が学位論文となり、平成22年9月に大学院を修了し、10月からは特任助教を務めています。研究の結果については、101st AACR(Washington D.C.)や第8回国際胃癌学会(Krakow, Poland)、日本癌学会や日本病理学会などの国外、国内の学会で発表させていただきました。今後は他の候補遺伝子の解析を進めていくとともに、異なる胃癌細胞株や胃癌組織から得たmRNAを用いたCAST法についても研究を進めていきたいと考えています。
 入学した当初は分子病理学の基礎も理解できていない状態でしたが、素晴らしい人間関係にも恵まれ、研究室の仲間と一緒に楽しく実験を進めていきながら、実験および分子病理学の基礎を勉強することができました。特に、CAST法に最初から携わり、解析対象とする候補遺伝子の同定、各遺伝子の発現解析に関する大きな流れや考え方を学ことができたことは、私にとって大きな財産となっています。今後はさらに研究に励むことに加え、教育、病理診断などを通じて、研究室のさらなる発展に貢献したいと考えています。

阿南 勝宏

10)林 哲太郎(大学院生D3, 平成11年卒)同門会報第24号(2009年12月)より

平成19年4月より分子病理学教室の大学院生となり、2年半が過ぎようとしています。私が大学院に入学した当時、胃癌におけるCAST法(Escherichia coli ampicillin serection trap)を用いた膜蛋白と分泌蛋白の遺伝子解析を始めようとしていたところだったので、泌尿器科出身の私は尿路系腫瘍で同方法を用いた遺伝子解析を行なうことになりました。CAST法の概略は、シグナルシークエンスを欠損させたアンピシリン耐性遺伝子を組みこんだベクター(pCAST)に解析対象サンプルのcDNAライブラリーを組込み、大腸菌に導入した後にアンピシリン含有培地で選択し、コロニーの塩基配列を解析するという方法です。同時期に入学した坂本先生、阿南先生、大原先生と一緒に始めたのですが、初めはなかなかコロニーが得られず、ひとつずつ条件設定を行い実験方法を確立していきました。約半年後、初めて培地にコロニーが生えていたときは感動し皆で喜び合いました。その後、胃癌と前立腺癌の細胞株のcDNAライブラリーから約5000クローンの塩基配列を解析しました。候補遺伝子に対しては癌部、非癌部での発現の比較や、臨床病理学的因子との相関、機能解析を行いました。しかしやはり研究とは厳しいもので、目的としていた診断や治療標的となる新規癌特異的遺伝子はなかなか発見できず、現在も様々な胃癌細胞株からのCAST法による検討を続けています。それでも少しずつ結果が現れ始め、本年度の第68回日本癌学会総会では、“分泌/膜貫通タンパク質のCAST法を用いた解析:CDONは前立腺癌で高発現している膜貫通蛋白である”という演題を口演で発表できました。緊張して発表を迎えたのですが、國安教授に座長をしていただけた幸運もあり、なんとか発表を行うことができました。またこの学会の後に、同発表でdermokineという分泌蛋白の前立腺癌での発現をfigureの一部に入れていたところ、胃癌や大腸癌でのdermokineの発現を検討されていた他大学の先生から、尿路系腫瘍におけるdermokineの発現の検討をということで共同研究の話をいただきました。自分の発表に反響があったことに驚き、一方で研究成果を発表する楽しさを知るという貴重な経験ができました。この2年半を振り返ると、全く知識がない状態で入学したにもかかわらず、安井教授、大上先生、本下先生、仙谷先生を始め一緒に実験をしている院生の方々のご指導と励ましに支えられ、少しずつ基礎研究とその考え方を学ばせていただいたことに感謝するばかりです。これからはさらに研究に励み、研究結果を論文という形で完結できるよう努力するとともに、伝統ある広島大学分子病理学教室の一員として教室の発展に貢献できるよう努力をしていこうと思います。

林 哲太郎

9)坂本 直也(大学院生D2、平成17年卒)同門会報第23号(2008年12月)より

平成19年4月に分子病理学教室に入ってはや1年半が経過しました。当初、ピペットの使い方もままならない状態でしたが、大上先生、仙谷先生に懇切丁寧に御指導頂き、非常に少しずつではありましたが、多くの実験手技、知識を習得することができました。
 私が最初に頂いた研究テーマは「Reg IVの上流・下流因子の同定」でした。まずReg IVの下流因子の同定に関してですが、胃癌細胞株TMK1、MKN28にREG4を導入し、導入前、導入後の発現遺伝子プロファイルをMicroarrayを用いて解析しました。その中でReg IV導入に伴い発現が亢進している遺伝子に関してqRT-PCRを行い、実際にRNAレベルで発現の亢進が認められた遺伝子を解析対象としました。その中でSOX9に注目し解析を進めましたが、免疫染色でも特異的な発現パターンは認められず、Reg IVとの相関に関してはそれ以上の知見を得ることができませんでした。この検討では、Western blotで、qRT-PCRと同様のSOX9の発現の推移を示すデータがなかなか得られず、細胞を取り直すなど条件を変えて、ひたすらWestern blotを繰り返したことが一番印象に残っています。次にReg IVの上流因子の同定に関してですが、第二外科の檜井先生から供与して頂いた細胞を用いて、CDX2の発現誘導に伴い、Reg IVが発現誘導されることを確認し、CDX2によりReg IVの発現が制御されているという仮説のもと、解析を進めました。まずReg IVのpromoter領域を抽出し、その領域内に複数存在するCDX2とのconsensus sequenceのうちで最もReg IVの発現に影響を与える領域を、luciferase assayを用いて同定しようと試みました。しかし、この解析もなかなか思ったようには進まず、現在も頭を悩ませているところです。
 当初頂いたテーマに関しましては、まとまった結果を得るに至っていないのですが、Reg IVの上流の同定の検討において、過去に報告された「EGFRの活性化に伴い、AKT、AP1を介してReg IVの発現が誘導される」との知見を確認する目的で、大腸癌細胞株HT29の培養液中にEGF、TGF-αを添加し、その後にWestern blotでReg IVの発現レベルの推移を検討しました。実験に用いた細胞の都合上、CDX2が細胞内で機能していることを確かめる必要があり、同時にCDX2の標的分子であるLI-cadherinの発現レベルも検討したところ、発現の上昇が期待されたReg IVは発現さえも認められず、LI-cadherinの発現レベルがEGF、TGF-α添加によって亢進している、というデータが得られました。このデータをもとにさらに解析をすすめ、大変興味深い結果が得られたので現在論文を作成しています。またこの内容に関しては、国内外、様々な学会で発表する機会を得、大変貴重な経験をさせていただきました。
 今後も引き続き論文作成や、現在のテーマに精一杯取り組んでいきたいと思っています。

坂本 直也

8)大原慎也(大学院生D2、平成11年卒)同門会報第22号(2007年12月)より

平成18年10月に分子病理学教室の門を叩いて1年が経過しました。私がまずさせていただいた研究は、当教室でSAGE解析によって胃癌で高発現が認められた分泌蛋白REGIVの前立腺癌における発現でした。免疫染色の方法も全く分からず一からご指導いただきました。結果としてREGIVの発現症例において前立腺全摘出術後のPSA再発が有意に高いことが分かり、第66回日本癌学会で発表することができました(後にOhara et al.: Cancer Sci 99: 1570-1577, 2008)。前立腺癌のホルモン不応性症例においてREGIVが高発現しているとの報告もあり、REGIVのホルモン不応性に関する機能解析が今後の検討課題と考えています。
 一方、腎癌におけるCAST法(Escherichia coli ampicillin serection trap)を今年の春より開始しました。癌治療の標的分子として、薬剤が到達しやすいという観点から、癌細胞表面あるいは分泌蛋白が注目されており、これらを効率よく同定する方法としてCAST法が知られています。CAST法の概略を紹介します。分泌に関与するシグナルシークエンスを欠損させたアンピシリン耐性遺伝子(β-ラクタマーゼ遺伝子)を組みこんだベクターに解析対象サンプルのcDNAを組込みライブラリーを作成し、これらを大腸菌に導入して、アンピシリン含有培地で培養します。ここで選択されてくる大腸菌はβ-ラクタマーゼ遺伝子が分泌、あるいは大腸菌の膜上に存在することを意味しています。すなわち、pCASTに組込まれた遺伝子配列中に膜貫通ドメインあるいはシグナルシークエンスが存在することを示しているのです。これらの陽性クローンの塩基配列解析を解析すれば、効率よく膜・分泌蛋白を同定できるという方法です。CASTベクターの配列の確認をした後にcDNAが実際に組み込まれているかを確認することから始まり、培地の濃度の条件設定など実際に開始するまでにかなりの時間を費やしています。実際開始してからも培地にコロニーが生えたり生えなかったりで苦戦しているのが現状です。繰り返し作業で骨の折れる実験ですが、同じ院生の林先生、坂本先生、阿南先生らと共に楽しくやっています。

坂本 直也

7)仙谷和弘(大学院生D4、平成13年卒)同門会報第21号(2006年12月)より

今年の6月より大学院生に復帰しました仙谷和弘です。当教室に入局させていただいたのは学部を卒業して直ぐの平成13年4月なのですが、数年間の武者修行(臨床や病理の研修)を日本全国でさせていただいた後に戻って参りました。新入に近いような状態ですので簡単な自己紹介をさせていただきます。生まれは広島北部の可部です。学生時代はバレーボールをやっていました。趣味はドライブや日本全国味めぐりで、北海道・沖縄を含めて全県に自分の車を乗り入れ、その土地の文化に触れつつ舌に味の音色を刻み込んできました。家族構成としては、広大精神科に勤務している学生時代の同級生だった妻と一歳半になる息子の3人です。
 現在行なっている研究テーマの柱としてはいくつかあります。
 まず第一には、胃癌において当教室で解析を進められたSAGE法の結果とAffimetrix社のGene Chipを用いて解析された結果を比較することによって、SAGE法では捉え切れなかったいくつかの遺伝子を検討しています(後にSentani et al.: Pathobiology 77: 241-248, 2010; Sentani et al.: Carcinogenesis 33: 1081-1088, 2012)。
 第二は、被爆者における癌は非被爆者と比較してどのような違いがあるかに関して主に遺伝子発現、蛋白発現の面から、医局の複数の先生方と協力して検討を行っています。
 いずれも興味深い結果が得られつつあり、近いうちにまとまった結果を報告できると思います。
 日々の病理診断業務に関しても、現在済生会広島病院と呉病院の症例を中心に、生検、手術標本を見させていただいています。今後とも研究および病理診断ともに頑張っていきたいと思います。

坂本 直也

6)三谷佳嗣(大学院生D4、平成14年卒)同門会報第20号(2005年12月)より

歯学部を卒業して間もなくの4月1日、故石川武憲教授(第二口腔外科)から「さあ、行こうか。挨拶に行くぞ。」と言われ、どこに行くのだろうかと思いつつやってきたのが分子病理学(旧第一病理学)の安井教授室、早くも3年半が経過しました。その時、「三谷、お前まあ、2年ぐらいやからな。」と石川教授に言われました。第二口腔外科で臨床もできると考えていましたが、今では臨床ほぼゼロでどっぷりと研究に浸っています。
 最初の研究は「胃癌におけるp21WAF1/CIIP1のヒストンアセチル化とその発現」でした。学生時代は陸上競技部で走ってばかりの私にとって、研究はもちろん無縁で、「ひすとん」ってなんやというレベルでした。最初に行なった実験がchromatin immunoprecipitation assayでした。訳も分からず、大上先生に言われた通りにやってみたものの、当然最初はうまくいくわけもありません。何回かするうちに、細胞株ではうまくできるようになり、自信がついてきました。当時組織を使ってchromatin immunoprecipitation を行い、アセチル化を検討した論文は全くなく、研究の対象を胃癌組織に移行しました。組織を使った途端にうまくいかなくなりました。いろいろと試行錯誤を重ね、最初にうまくできた時はとても嬉しかったのを覚えています。結局このテーマには一年半かかりましたが、いざ投稿してみるとこれがrejectの連続でした。何回か投稿を重ね、病理学のトップジャーナルである「Journal of Pathology」にacceptを頂いた時は半信半疑で、Pub-Medで自分の名前を見た時にやっと実感が湧いたのを記憶しています(Mitani et al.: J Pathol 205: 65-73, 2005)。また、このテーマでAACRで発表させていただく機会がありました。初めてのアメリカの地で、自分の研究に多くの人が質問をしてくれました。日本の学会ではあまり質問を受けなかったので、このテーマの重要性を改めて認識したと同時に、世界との差を肌で感じることができたのは大きな収穫でした。
 次にいただいたテーマが「Identification of interacting molecules with RegIV」です。当研究室で行った胃癌のSAGEライブラリーにて、胃癌で高発現しているRegIVという分子の機能解析が目的です。分泌蛋白であることしか分かっていなかったため、yeast two hybrid assayを用いてRegIVに結合する分子を最初に検索しました。当研究室でyeast two hybrid assayを行なうのは初めてであり、プロトコールを何度も読み、いろんな文献や本を読みながら実験を行いました。8ヶ月ぐらいたってようやくあるひとつの膜タンパク質が候補に挙りました。大変興奮したのを覚えています。しかし、ここからが実は大変であり、結合している事を証明するために多くの実験をしました。時にはGST pull down assayを生化学さんのほうに習いに行ったこともありました。未だに確証の得られないのが現実です(後にMitani et al.: Oncogene 26: 4383-4393, 2007)。
 分子病理に来てからの約4年という月日は長くもあり、あっという間でもありました。実験がうまくいかず、データが無い期間が長いこともありました。いろいろやっても結果に結びつかないことが多かったような気がしますが、研究とはこんなもんだと思います。
 一つの論文には隠れたデータが山のようにあり、結果に結びつかないことが多くあると痛感しました。しかし多くの手法を身につけることができたことは私にとっては大きな財産であり、きっとここでの経験は今後に必ず生きてくると思っています。

坂本 直也

5)松村俊二(大学院生D4、平成5年卒)同門会報第19号(2004年12月)より

平成13年に病理学第一講座(分子病理)の門を叩いて、はや4年が過ぎようとしています。安井教授から研究テーマとして、「胃癌のリスクと一塩基変異多型(single nucleotide polymorphism:SNP)」をいただいています。当初は(今もですが)、SNPとは何かどころか実験手技も何ひとつ分からない状態で、何から手をつけてよいのかも分からず、大上先生、倉岡先生には一からご指導いただきました。まず取り掛かりとして、他の癌で既に報告されているSNPを胃癌でやってみようということになり、MMP-1のプロモーター領域におけるSNPの検討を始めました。当時の論文では、genotypeの決定にPCR-SSCP法が採用されていたため、早速これをやってみましたが、これが今考えても非常に煩雑かつ微妙な手技であり、何度も失敗しながら、それでも何とか結果らしいものが得られました。しかし、この後さらにイバラの道が待ち受けており、投稿しても投稿しても受理されないという日々を送っていました。今でこそ症例数が少ないとか、血液サンプルを用いるべきだとか、さらには統計学的検討方法がなっていないなどと偉そうに言えるのですが、なにがダメなのかさえも分からない状態でした。そんな時、安井教授から「臨床にいた経験を生かして、血液を集めなさい。解析については、放影研の中地先生に相談させていただきなさい。」と助言をいただきました。その後は、これまた手探りで倫理申請を切り抜け、防府消化器病センターの松崎先生や原医研外科の吉田先生、一内科の北台先生等のご協力により収集した血液サンプルを用いて、やっと分子疫学的に満足な結果が得られ、「accept」というゴールに到達することができました(Matsumura et al.: J Cancer Res Clin Oncol 130: 259-265, 2004; Matsumura et al.: J Cancer Res Clin Oncol 131: 19-25, 2005)。今では、胃癌症例200例、コントロール550例の血液サンプルを有しています。また、ヒトゲノム解析研究における倫理審査の申請に必要な文章もお手の物になりました。
 今後は、多くの先生方のお力添えで立ち上がったSNP研究をさらに発展させ、「胃癌に特異的なSNP」を見出し、広島大学病理学第一講座(分子病理学研究室)発の東大医科研にも負けない業績をあげたいと思っています。

4)大下恭弘(大学院生D3、平成14年卒)同門会報第18号(2003年12月)より

3年前より第一病理(分子病理学研究室)で、胃癌におけるDNAメチル化について研究を行っています。最初の1年は、胃癌におけるDNAメチル化のターゲットとなる遺伝子のスクリーニングを行ない、細胞株で発現が消失していたcyclin D2に注目して実験を行うこととなりました。胃癌においては、cyclin D2の高発現が腫瘍の発展と相関するとの報告があり、proto-oncogeneと考えられていますが、乳癌では、DNAメチル化による不活化が腫瘍で認められ、腫瘍により機能が異なっていることが想定されています。DNAメチル化は種々の癌における様々な癌抑制遺伝子の不活化の機序として知られていますが、DNAの脱メチル化が癌遺伝子の活性化に関わるという報告もあり、胃癌におけるcyclinD2の高発現がDNAの脱メチルによるものではないかと考え、実験を開始しました。胃癌細胞株では発現消失とメチル化には相関が認められ、発現のない細胞株でも脱メチル化剤にて発現が誘導されたことにより、DNAの脱メチル化がcyckinD2の活性化に関わるということが示されました。ところが、実際の胃癌症例で発現を検討したところ、実験手技の未熟さもあってか、発現とメチル化に関連が認められませんでした。それでも、International Journal of Cancerに投稿したところ、major reviseということで一瞬喜んだのですが、reviseの内容をみてみると、自分の実験手技ではとても3ヶ月では終わらない追加実験(これまでに行った実験以上のもの)が要求されていました。自分なりに頑張ってreviseしてみたものの、あっさりrejectの返事がきてしまいました。Reviseでもmajor reviseはつらいことを知り、revise後にrejectになった屈辱感を味わい、はじめからrejectにしてもらいたかったと思いました。しかし、そこで苦悩が終わったわけではなく、以後もほとんど同じ内容ではrejectされ、そうこうしているうちに、多少内容は異なりますが同様の報告があり、3年目の半ばで何とか論文発表という到着点を迎えました(Oshimo et al.: Int J Oncol 23: 1663-1670, 2003)。
 2年目に行ったテーマはCellに報告されたRUNX3でした。RUNX3はTGF-beta経路の調節因子で、RUNX3の不活化によりTGF-bate経路が抑制されることが示されています。私の研究では、胃癌において高頻度にメチル化を認め、TGF-bate経路の抑制による発癌にはRUNX3のメチル化が関わっていることが示されました。しかし、非腫瘍部においてもメチル化を高頻度に認め、非腫瘍部ではmonoallelic、腫瘍部ではbiallelic methylationがおこっているのではないかと考えられ、論文はPathobiologyに掲載されることがすでに決定しています(Oshimo et al.: Pathobiology 71: 137-143, 2004)。
 3年目は、RIZ1という遺伝子のDNAメチル化について実験しました。この遺伝子については比較的良好な結果が得られ、比較的短期間でIJCにacceptされました(Oshimo et al.: Int J Cancer 110: 212-218, 2004)。最近は、当教室でこれまで検討してきた9遺伝子のメチル化、CIMP、p53変異を75例でまとめて論文発表しています。これまで、個々の遺伝子のメチル化が注目されていましたが、最近の報告では多くの遺伝子のメチル化を有す腫瘍は予後が悪いとされており、実際胃癌においてもメチル化の数が多い腫瘍はstageが進行している結果が得られています。3年目にしてやっと比較的落ち着いたデータが出るようになった気がします。DNAメチル化以外に行った研究では、SAGEにて胃癌で高発現しているtagで、既知の遺伝子と一致しないtagをreverse SAGEという手法で遺伝子を同定しようという大きなprojectに関わることができました。
これまでの研究を通して思ったことは、研究は通常の診療より忍耐のいる仕事で、大きなprojectはやりがいはあるが、実際に結果がでるまでは相当の努力、労力を要することです。また、第一病理の国内外における知名度および実績のすごさを身にしみて感じ、当教室で学べることを誇りに思います。

大下恭弘

3)近藤丈博(大学院生D3、平成10年卒)同門会報第18号(2003年12月)より

私の研究テーマは胃癌とテロメアです。以前から私は細胞老化に興味があって、寿命というものが遺伝子レベルでどのようにコントロールされているのか、一度機会があれば研究してみたいと思っていました。幸いにも、分子病理学教室の大学院生としてテロメアを研究する機会を与えていただき、とても感謝しています。具体的には、テロメア関連蛋白をコードするPOT1とPINX1という二つの遺伝子の発現と胃癌の臨床病理学的事項の解析を中心に研究を進めています(後にKondo et al.: Cancer Res 64: 523-529, 2004; Kondo et al.: Oncogene 24: 157-164, 2005)。ここではPOT1について述べたいと思います。
 染色体の末端は、3'末端が、5'末端より100-200bpほど長いということは以前から指摘されていました。POT1はこの3'末端に結合する蛋白として報告されたものです。はじめ、POT1の発現レベルとテロメア長との間にどうも正の相関がありそうだという結果が得られた時、私にはその理由がよく分かりませんでした。ただし、POT1蛋白が一本鎖3'末端全体を被っているのではないかとは考えていました。なぜなら、この一本鎖3'末端がむき出しのままなら、DNAを損傷として、修復機能が働いてしまうと思ったからです。POT1蛋白が一本鎖3'末端を被っているのであれば3’末端の長さとPOT1の発現レベルは相関すると想定されるが、3'末端の長さはどうやって測定するのだろうと、そこでしばらく悩んでいました。次にShayとWrightがJCBに細胞の分裂速度と3'末端の長さは相関するという論文を発表した時、私は、若い細胞は十分な長さのテロメアを持ってどんどん分裂し、年をとった細胞はテロメアが短くてゆっくりと分裂するイメージがあったので、即座に、テロメア長と3’末端の長さは相関するのではないか、さらに、先に述べた理由からテロメア長とPOT1の発現レベルは相関していてもおかしくなさそうだと考えました。このような思い込みに基づき、実際にCell lineを使って自分の仮説を試してみたいと考えました。そこで、MKN-28と74AZT処理してテロメアを短縮させたところ、予想通り、みごとにPOT1の発現低下が見られました。しかし、AZTが直接POT1を抑制している可能性も考えられます。そこで、POT1アンチセンスを使って処理すると、テロメア長の短縮が観察されました。この頃が私のPOT1研究の一番のクライマックスだったと思います。後に、In-Gel hybridizationにて、3'末端末端の長さが測定できるようになると、やはりPOT1の発現レベルと相関が見られました。
 最近私は、研究には強い好奇心と飽きもせず同じことをずっと考え続けられる“頭”の持久力がとても必要なんじゃないかと感じています。POT1については、今後しばらく論争が続くと思います。なぜなら、POT1はテロメアのpositive regulatorなのか、negative regulatorなのか意見が別れているからです。また、POT1はテロメラーゼが染色体末端に作用する場を与えるとされているので、今後テロメラーゼ関連でも研究が進むのではないかと思っています。

近藤丈博

2)倉岡和矢(大学院生D3、平成12年卒)同門会報第17号(2002年12月)より

大学院入学当初、私に与えられた研究テーマは“胃癌の発生・進展と一塩基変異多型(SNP)との関連”でした。様々な遺伝子にSNPがあることが知られていましたが、その中でもまずE-cadherinのSNPについて実験を始めました。前立腺がん細胞株を用いた実験でE-cadherinのpromoter領域にはSNPが存在し転写活性に影響を及ぼすという論文が当時のCancer Researchに紹介されていたからです。基本的な実験手技等まだ何も分からないので諸先生方の指導のもと、まず胃癌細胞株を培養し、そこからgenomic DNAを抽出しSNPを検出することから始めました。当初はPCR-RFLP法を用いようとしていましたが制限酵素処理がどうしてもうまくいかず、PCR-SSCP法に切り替えることにしました。横崎先生にSSCPの原理・手技を教えていただき、やってみたところ胃癌細胞株にも同じSNPが検出され、シークエンスによりgenotypeが決定されました。次に胃癌症例、非癌症例の胃粘膜からgenomic DNAを抽出し同様にSSCPによってSNPのgenotypeを調べようとしました。初めのうちは順調に症例数を増やしていくことができたのですが、次第にPCRがかからなくなったり、SSCPがどうしてもうまくいかなくなり、しばらく膠着状態に陥ってしまいました。いろいろ試行錯誤し、結局はprimerを変えることで何とか胃癌症例、非癌症例それぞれ約100例ずつ調べることができました。そして、データをまとめ、このSNP と胃癌のリスクとの関連を解析したところ、例のCancer Researchに出ていたin vitroの実験から予想される結果と正反対になってしまいました。一部の症例で免疫染色やwestern blotを行ってみてもこの分子生物学的な機序は分かりませんでした。
 次にHER2のSNPについて同様の実験を始めました。HER2は、初の分子標的薬剤ハーセプチンが開発され乳癌治療薬として臨床応用されているため注目されていますが、以前はc-erbB2という名前が使われ様々な腫瘍で研究されており、当教室でもCancer Research(1990)をはじめ胃癌との関連を検討した論文を発表しています。このHER2にSNPがあるという論文を見つけてきたのは同じSNP研究グループの松村先生でしたが、当時、松村先生はMMPやVEGFの実験に忙しかったため、私がHER2を手掛けることになりました。方針はE-cadherinの時と同じでしたが手法はSSCPの代わりにRFLPを用いました。幸いにもこちらはスムーズにいき、順調に症例数を増やすことができ、胃癌のリスクとの関連も明らかでした(Kuraoka et al.: Int J Cancer 107: 593-596, 2003)。E-cadherinもHER2もある程度症例数が集まり、SNPと胃癌のリスクとの相関は明らかであるため日本癌学会や病理学会、消化器癌発生学会で発表させていただきました。また、E-cadherinのほうはいくつかの雑誌にも投稿しましたが、未だ採択されていません(後にKuraoka et al.: Int J Oncol 23: 421-427, 2003)。
 SNPの研究にはデータの解析法がとても重要です。いろいろなSNPの論文を読んでみると、性別や年齢は勿論、それぞれの疾患の危険因子(肺癌ならタバコ、乳癌なら肥満、胃癌ならHelicobacterpylori等)に曝露されている割合、等をそろえた上で、どこかで聞いたことはあるけれど、意味はよく分からない種々の統計処理法、統計解析ソフトが用いられています。また、SNPはgermlineの遺伝子変化であるため、最近厳しくなってきた倫理問題を避けて通るわけにはいきません。さらにSNPの実験には多数の、しかも種類(血液、粘膜等)を備えたサンプルが必要であり、この点にも苦労しています。このように、SNPの論文が採用されるためには多くの克服すべき問題点があり、同じSNP研究グループの松村先生、濱井先生をはじめ、教室の諸先生方とともに日々努力をしています。サンプル収集の面では、防府消化器病センターの松崎先生、原医研の吉田先生、第一内科の北台先生、統計の面では放影研の中地先生、今井先生等、多くの先生方からご指導、ご協力をいただいています。

倉岡和矢

1)大上直秀(大学院生D3、平成11年卒)同門会報第16号(2001年12月)より

大学院3年の大上直秀です。もう3年目になってしまったのかというのが実感です。私に最初に与えられた研究課題は「DNA脱メチル化酵素」でした。大学院入学直後の私にとっては何のことかさっぱり分からず、とりあえずNorthern blot を行ないました。この手法は思い描いていたよりもかなり時間と手間がかかり、また胃癌のサンプルも揃っていなかったので、結局18例しか解析できませんでした。当時、遺伝子のメチル化関連の研究では、メチル化酵素、脱メチル化酵素というよりは、メチル化そのものを検討していたものが多く、胃癌でそのような研究をしたほうがいいのではないかと考えるようになりました。しかしメチル化を検出するメチル化特異的PCR法はわれわれの教室ではなされたことのない手法であり、その立ち上げから始めました。メチル化特異的PCRを行うにはまずゲノムDNAを抽出しなければなりません。何度も失敗を繰り返した後、ようやくしっかりとPCRのかかるDNAが抽出できるようになりました。続いてメチル化特異的PCRを行うわけですが、これに至っては100回ぐらい失敗したという記憶があります。原理もよく理解しておらず、当時はどこに問題があるのかが全く分かりませんでした。もうだめかもしれないと考えたこともありました。私は学生時代、入局先をかなり考えた人間のひとりです。同級生の殆どが臨床系の講座に進む中、一人だけ基礎系の第一病理学教室に入局したのは、癌の治療につながる研究をしたいとの思いからであり、ここでやめるわけにはいきません。結局、何とか工夫をしながらうまく結果がでるになり、MGMTという遺伝子の胃癌におけるメチル化異常に関する論文を仕上げることができました(Oue et al.: Int J Cancer 93: 805-809, 2001)。一方、最初の研究テーマである「DNA脱メチル化酵素」についてはその2ヶ月後に論文にまとめることができました(Oue et al.: Oncol Rep 8: 1085-1089, 2001)。しかしその論文では6ヶ月もかけて行ったNorthern blotのデータを出す場面はありませんでした。一つの論文の背景には掲載されていない多くのデータがあるということがよく分かりました。
 現在は、ポストゲノム時代ということで、DNAマイクロアレイ、SAGEをはじめとする胃癌のトランスクリプトーム解析に挑戦しています(後にOue et al.: Cancer Res 64: 2397-2405, 2004)。こちらの方でもかなり悪戦苦闘していますが、形になれば癌治療に役立つ結果が得られるものと信じています。

大上直秀